いま企業の人材育成に様々な形が模索されています。その中でも重要なイノベーションを生み出すためにきっかけとなるものは?
これから求められる人事や採用サイトのあり方について本音で語る、情報機器メーカーのコニカミノルタの人事部 企画労政グループリーダーの臼井強氏と、経営やブランディング、採用に関するコンサルティング経験が豊富なデジタルステージ代表 熊崎との対談をご一読ください。
副業解禁で、絶え間なくイノベーションを生み出す環境を作る
── 兼業・副業解禁の理由をお聞かせください。
臼井:まず、兼業・副業解禁は、それ自体が目的ではないということです。背景としては、コニカミノルタが置かれている環境変化が大きい。我々の売上の割を占める情報機器業界は景気変動を受けやすく、また、ペーパレス化の進展などにより、これまで通りのやり方では、持続的な成長は難しい状況です。
臼井:この先、熾烈なグローバル競争に打ち勝つために何が必要なのか。戦略がどれだけ立派でも、実行するのは人です。当社の社長が常々口にする「個が輝く」という言葉があります。社員が能動的に仕事に取組み、自らの成長を実感できる、このような会社を作ることが必要です。
社内にイノベーションを起こすためには「ダイバーシティ」が欠かせません。当社では、年齢、性別、国籍だけでなく、様々な経験による価値観の違いも重要なダイバーシティの要素ととらえていて、副業解禁やジョブ・リターンなどを進めています。多様な人財がいること、人財同士で火花が散ること、火花が散った結果を事業につなげていくことの三段階が、イノベーション創出には必要です。人事がやるべきは、はじめの2つ、つまり、多様な人財を増やすこと、人財が混じり合う場を作る、あるいは、混じり合いにくい環境を取り除くことだと思っています。
熊崎:採用戦略で有利、といった世間のイメージとは異なりますね。
臼井:そうですね。中途入社の人は当然、外での経験を備えて入社します。では、コニカミノルタで長く働いている人はどうなのか。兼業・副業解禁によって、そういった人にも外での経験を積むチャンス、学ぶチャンスが生まれます。社外で経験を積むための活動が、お金がもらえるために「副業」とされ、とたんに制限されてしまう、というのはおかしいと考えます。
全社的なイノベーションのために、社員が新たな一歩を踏み出せるように、兼業・副業解禁を打ち出すことによって後押しをしました。
── そもそも兼業・副業解禁を受け入れる素地があったのですか?
臼井:必ずしもそうではありません。社長のリーダーシップのもと、経営陣がダイバーシティ推進の必要性とそのための兼業・副業解禁という事を腹落ちしてくれたことが大きいと思います。経営会議では、退職や情報漏洩のリスクが議題として上がりましたが、ダイバーシティの推進という大きな目的のためには必要だ、と判断してくれました。兼業・副業を解禁して2年近く経ちますが、ネガティブな意見は聞かれません。
熊崎:副業・兼業に関して、承認数などのKPIを設けているのですか?
臼井:その点は社長から「KPIを設けるな」と強くいわれました。なぜかというと、数だけを追ってしまって、社内で兼業・副業の推進セミナーを行ったりと、数字を作るほうに意識が向いてしまう、と。そうなると、イノベーションやダイバーシティという目的からは、どんどん遠くなってしまいます。
人事のカギはダイバーシティ。若者たちの働き方の変化にも応えたい
── 現在、兼業・副業をされている方は、どれくらいいるのですか?
臼井:60名くらいです。完全に競業になってしまう場合などを除いて、承認しないことはほぼありません。
熊崎:これまで、ベンチャーやスタートアップ企業のコンサルティングの経験から、副業を全社的に認めるところは少ないと思います。ある会社は、一度認めたのですが、その後に禁止にしたり(笑)。退職や人材流出が相次いでしまったことが理由のようです。
熊崎:そもそも、ベンチャーではリモートワークが認められていたり、ダイナミズムのある業務も多い。副業を認めてしまうと、本業と副業の境がとてもあいまいになってしまいますね。働き方が大きく変化する中で、これから就職する人、すでに働いている人も、自分の人生の中で「仕事」というものをどう位置づけるのかを、もう一度考える必要があります。
コニカミノルタの取り組みは、きちんと目的があって、「兼業・副業解禁」というアイデアが必然として出てきた印象を持ちました。多感な人、ひいては、変化に対応できる能力を備えた人を雇用するという意味でも、すばらしい決断だと思います。
── 「兼業」を掲げるのは珍しいと思います。兼業と副業をどのように区別していますか?
臼井:それほど深い意味があるわけではなくて、コニカミノルタに務めている時間が短ければ「副業」、一方、コニカミノルタの仕事が短く、外での仕事がメインとなれば「兼業」になる、というイメージです。
── 新卒と中途で、承認数や実績に何か違いがあれば教えてください。
臼井:先ほど、承認数は60名くらいと申し上げました。新卒入社の人のほうが多く、中途入社の人が少ないのですが、社員構成からいくと自然な比率です。
熊崎:年齢的なことでいうと、若い人たちはやはり、マルチスキルや副業に対する関心が高い。IT系では、むしろ「普通のこと」と考えている人も多い。複数の分野で活躍するポートフォリオワーカーも増えていますね。
ただ、副業そのものが目的ではなくて、自分のやりたいこと、作りたいもの、成長のために必要な経験を考えて、副業という選択肢がある、という意識です。自己実現のために有益であるかどうかが判断基準のようです。
30歳前半で、すでに3社目、4社目という人もいます。転職やジョブチェンジを重たいものとは考えていない。コニカミノルタも、新卒で入社してから数年経ち、副業に取り組みたいと考える人が増えそうですね。
臼井:人事としては、そういうニーズに対して「どうしようかな」ではなく、「こうしましょう」という体制を整えておくことが、後押しになると思っています。
中途採用では、入社の理由として「兼業・副業解禁」を挙げる人もいます。新卒で副業までを考えて就職する人、それを表に出す人はまだいない状況ですが、おっしゃるとおり、若い人たちのニーズにも応えながら、社内にダイバーシティを生み出したいと考えています。
先端技術に取り組む企業として、イノベーティブな人材が必要不可欠。
── 機密保持、競業避止などのリスク管理はどうでしょうか?
臼井:おっしゃるような基本事項については就業規則で定めている内容も含めて、誓約書を書いていただいております。その中でも、もっとも重要なのは「健康管理」だと思っています。人財が力を発揮するベースは、健康であることは言うまでもありません。コニカミノルタは、経済産業省の「健康経営銘柄」にも選ばれ、社員の健康管理に力を入れている企業として認知されており、社内投資も行ってきました。
臼井:一方で、兼業・副業について、月何十時間まで、夜は何時までといった制限は、あえてしていません。外での学びや経験に対して、会社が規制するのはおかしいだろうと。兼業・副業の時間管理や詳細な報告などを求めることは、ダイバーシティやイノベーションから離れていってしまうことだと思います。
コニカミノルタでは、自分でやりたい、学びたいという、ポジティブな気持ちを大事にしています。管理するのではなく、背中を押してあげたい。もちろん、健康面で不安があればいつでも相談にのれる体制を取っていますし、承認時にはその事を伝えています。
熊崎:とても割り切りがよいですね。副業での経験を、本業のほうに持って帰ることは大いにあります。スキルだけでなく、人材交流という面でも効果が大きいはずです。
私自身も複数の会社に関わっているポートフォリオワーカーで、ひとつの会社だけで働くという経験がほぼありません。働く人たちの意識も変わってきていますし、優秀な人が力を発揮できる社会が健全だと思っています。
ただ、政府や行政は、社員の有給消化や残業時間を法律で規制したり、一方では副業に関する制度設計や支援が充分でなかったりと、イノベーティブな人材育成についてどう考えているのかが判然としません。そのあたりが、今後の課題となるはずです。
── もうひとつの働き方改革、「ジョブ・リターン制度の導入」についてお聞かせください。
臼井:ジョブ・リターン制度は、ダイバーシティ推進の一貫として、兼業・副業解禁と同時に導入した取り組みです。一般的に、ジョブ・リターンは「育児や介護を理由としたもの」と考えられていますが、コニカミノルタのジョブ・リターンは理由を問いません。
ただし、転職や留学を理由とした退職の場合は、その後の成長が求められます。理想としては、コニカミノルタを若いうちに辞めたけど、力をつけて管理職として戻ってくることでしょうか。
まだ導入して2年ほどであり、導入後の退職者が対象ですが、すでに数名がジョブ・リターン制度を利用しています。
※Ascii.jpより転載。一部の内容を変更しています。
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POINT
- 多様な人財を増やすことはイノベーションを創出するカギに
- 兼業・副業解禁によって、社外での経験を積むチャンスと学ぶチャンスが生まれる
- ジョブ・リターン制度は成長した後に企業に戻ってくることが見込める