動画マーケティングを継続的に行うのであれば、iMovieのように、習得の負担が少なく簡単に使えるアプリのほうが適しているという考えもあります。しかし場合によっては、そうしたアプリではサポートされていない、より高度なマルチトラック編集などが必要になることもあるでしょう。
今回は、ハリウッドの映画編集者のNo.1チョイスでありながら、その主要機能をウォーターマーク(透かし)なしで無償利用できるDaVinci Resolve 17(以下、DaVinci Resolve)を紹介します。
DaVinci Resolveとは?
DaVinci Resolveは、総合映像機器メーカーのBlackmagic Designが開発と配布、有償版の販売を行なっているハイエンドの動画編集アプリ(M1 Mac、Intel Mac、Windowsに対応)です。
Adobe Premier ProやFinal Cut Proと同等以上の機能性
元々は、da Vinci Systemsという会社が開発していたカラー補正機能主体のアプリですが、Blackmagic Designの買収後に大幅な機能強化を行い、統合的な動画編集アプリ(正確には、撮影後の編集から仕上げまでをカバーするポストプロダクションアプリ)へと成長させました。そのため、ビジュアルエフェクトやモーショングラフィックスの制作・編集を行うためのFusionページや、音響関連の編集のためのFairlightページなども備えており、すべての処理を1つのアプリ内で行える反面、アプリの全体像を把握するのに時間がかかるともいえるでしょう。
無償版と有償のDaVinci Resolve Studio
DaVinci Resolveは、「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」や「DUNE/デューン 砂の惑星」をはじめ、数多くのハリウッド映画などの編集にも使われており、現在は、バージョン17.xと18のパブリックベータ版が完全無料で提供されているほか、有償のDaVinci Resolve Studioも用意されています。
Studio版(税抜35,980円)は、動画の圧縮フォーマットや場面転換のエフェクトがより充実し、マルチユーザー・コラボレーション機能やVR動画/ステレオ3D動画向け機能などが追加されていますが、それらはその名の通り動画制作スタジオ向けともいえるものです。無料版でも十分すぎるほどの仕様を備えているので、不足を感じることはまずないでしょう。
ちなみに、Blackmagic Designの製品を購入すると、DaVinci Resolve Studioの利用権が付属してくるという特典があります。
ハイエンドの動画編集アプリとしては、他にAdobe Premier ProやFinal Cut Proがよく知られています。前者は同じAdobeのクリエイティブアプリとの連携に優れる一方、サブスクリプションベース(単体で月額2,480円)で長期的に見てお金がかかり、後者はレンダリングスピードの速さやiMovieライクな操作感が特徴的なものの、Macバージョンのみでアップデートの間隔も空きがちです。
いずれにしても、DaVinci Resolveを含めて1つで万能というアプリはなく、目的に応じてこれらを使い分けているプロも少なくありませんが、個人のショップやスモールビジネスにとっては、DaVinci Resolveを無料で使えるという点が大いに魅力的といえるでしょう。
DaVinci Resolveの実用性と使い勝手
動画編集のプロフェッショナルでなくても、どこまで使いこなせるのか筆者の体験をもとに解説します。
マルチトラック機能が必要な動画編集で利用
筆者は先頃、アフガニスタンで医療、井戸掘削、用水路整備を行い、凶弾にたおれた中村哲医師の遺志を継ぐアフガンコンサート委員会の依頼に応じて、ボランティアで「ピースフルウクライナ ピースフルトゥモローズ」という動画を編集したのですが、その際に使用したのもDaVinci Resolveでした。
この動画は「Peaceful Tomorrows 平和を願うコンサート全体合唱」という同委員会の既存の動画にウクライナの風景(torange.bizというサイトで公開されていたクリエティブコモンズライセンスの写真)を挿入し、その平和を祈るというものです。そのような趣旨なので、派手な演出などは行わず場面転換もフェードのみでまとめていますが、すでに動画内には別のタイトルや字幕が存在していました。そこで、それらの文字にかぶせて別のタイトルや字幕を入れていくうえで、柔軟にコントロールできるマルチトラック機能が必要だったのです。
公式マニュアルも超大作!日本語切り替えも可能
DaVinci Resolveをインストールして起動すると、シンプルなプロジェクト管理画面が表示されます。この”Untitled Project”をダブルクリックして開くことで、実際の編集作業に入ることができ、また、保存されたプロジェクトもここで管理される仕組みです。
なお、筆者はDaVinci Resolveを英語インターフェースのまま利用していますが、Preference(環境設定)から日本語表示に切り替えることもできるようになっています。
”Untitled Project”を開くと、ブランク状態のカット編集画面が現れます。上段の左に、映像素材などを登録・管理するメディアプールがあり、その右側の黒い部分がビューアと呼ばれる編集時の動画の再生エリアです。下段の長短の赤い縦線が見えるスペースは、上下に分かれたタイムラインになっており、ここに編集したい素材を並べていきます。
さて、DaVinci Resolveは、ここから本領を発揮するのですが、その高機能さを物語るものとして、Blackmagic Design自身が提供する公式マニュアルがあります。日本語版のページ数は、実に3637ページもあり、細かく解説しようとすれば、一般的な解説本が何冊も書けてしまうほど内容が濃いアプリです。また、同じ処理を行うにも異なるモードが使えたりするので、最終的には好みに応じて自分の編集スタイルを見つけていくことになります。
ここでは、筆者が「ピースフルウクライナ ピースフルトゥモローズ」を編集するうえでやり易いと感じた基本的な編集手順を紹介しますので、興味が湧いたら、これをベースにして、自分の動画編集に使いたい機能をマニュアル内で検索して覚えていくようなやり方がよいでしょう。
DaVinci Resolveの基本の編集方法
DaVinci Resolveの動画編集の基本は、カットページとエディットページの使い分けにあります。ちなみに、DaVinci Resolveにおけるページとは、モードの意味と考えて差し支えありません。カットページとエディットページとは、つまり、カットモードとエディットモードのことです。
カットページとエディットページの役割
動画編集において、単純に素材を並べてつなぎ、不要な部分を削除して必要な場面だけを残すことをカット編集と呼びますが、カットページというのは、このカット編集に適したモードという意味です。カット編集は、最も基本的な編集テクニックであると同時に、素早く動画の全体像を作り上げて俯瞰するのに役立ちます。
一方で、エディットページは、より細かな編集を行なって動画を仕上げていくためのモードです。「ピースフルウクライナ ピースフルトゥモローズ」も、カットページとエディットページを行き来しながら編集していきました。
それぞれの、最もベーシックな操作方法を、以下の2つの図を使って説明していきます。
カットページの最も基本的な使い方
①メディアプールと呼ばれる素材の登録・管理スペース
動画や写真に加えて、タイトル・字幕のテンプレートや場面転換のエフェクトなども、ここで管理されます。「ピースフルウクライナ ピースフルトゥモローズ」では、最初に、利用する動画や写真の素材を、すべてここにドラッグして登録しました。
②カット編集のメインとなるタイムライン
ここにメディアプールの素材をドラッグして並べることで編集していきます。赤いラインは現在の再生位置を示し、これを左右にドラッグすると、ライン自体の位置は変わらずに、タイムラインのほうを前後に動かすことができます。
③動画全体を見渡せるタイムライン
②と異なり、常に動画全体を見渡せるようになっています。赤いラインは、やはり現在の再生位置を示しているものの、これを左右にドラッグしてもタイムラインはそのままでラインのほうが移動し、編集中の動画を素早くブラウズして、目的の箇所を見つけることができます。
④編集トラック
この「+」アイコンをクリックすると、編集トラックを増やすことができます。「ピースフルウクライナ ピースフルトゥモローズ」では、動画(音声込み)と写真にそれぞれ1トラックずつ、タイトルと字幕で2つ、合計4つのトラックを使用しています。
⑤特定のトラックに集中して編集
このアイコンは、見た目はスピーカーですが、音に限らず、対応するトラックのミュート(表示と非表示の切り替え)を行います。ここの設定はビューア内の表示がリアルタイムに反映されるので、特定のトラックに集中して編集を進めたいときなどに利用します。
⑥カットとエディットのモード切り替え
カットページ(左のアイコン)とエディットページ(右のアイコン)で両モードの切り替えを行います。
なお、カットページのより詳しい使い方については、日本語マニュアルのチャプター25(430ページ〜)を参照してください。
エディットページの最も基本的な使い方
①エディットページのメディアプール
高さや見え方などは好みに応じて変更することができます。ここでは、タイトル・字幕のテンプレートを表示させてタイムラインにドラッグし、追加しています。
②テキストの編集や設定
トラックにセットされたタイトル・字幕のパートを選択すると、ここに詳細設定が表示されます。表示したいテキストの内容や、フォント、位置などの細かな設定を行うことが可能です。
③フェードイン/フェードアウトの効果
トラックにセットされた個々の要素(動画、写真、タイトル・字幕)の前端と後端にあるマーカーをドラッグすることで、フェードイン/フェードアウトの効果をつけることができ、画面上ではその部分が輝度を落とした三角形で示されます。より高度なエフェクトをメディアプールからドラッグして追加することも可能ですが、「ピースフルウクライナ ピースフルトゥモローズ」では、ごくシンプルな場面転換に留めています。
なお、エディットページのより詳しい使い方については、日本語マニュアルのチャプター34(560ページ〜)、タイムラインのクリップの分割やトリミングについては、チャプター39(669ページ〜)を参照してください。
動画の書き出し
編集後の動画の書き出しについても、DaVinci Resolveには様々なオプションが用意されていますが、最も簡単な方法は、ファイルメニューの「クイックエクスポート」を利用することです。YouTubeやVimeo、Twitter用のプリセットもあり、目的のものを選択して保存するだけで書き出し作業が完了します。
まとめ
DaVinci Resolveは、もしかすると、インターフェースを見ただけで複雑すぎると感じた方もいるかもしれません。映像に加えて音響や色彩、タイトル・字幕、場面転換などの様々な要素が含まれる動画編集は、突き詰めるほどに細かなコントロールが求められるため、アプリもそれに応じて複雑化する傾向にあります。開発元のBlack Magicは、DaVinci Resolveと連携する編集用キーボード、カラーパネル、オーディオコンソールなどの物理的なコントロールハードウェアも販売しているので、トータルなビジネスの観点から、高機能なアプリを無償公開してユーザーを増やす戦略に出ているともいえるわけです。
とはいえ、それなりに考えて構築されたインターフェースなので、アプリのみでも楽器のように練習して慣れていけば、ある程度、自在に使いこなせるようになるでしょう。マーケティング目的であれば、本業とのバランスで動画編集にどれだけの時間と労力をかけられるかによって、アプリを選択したり、ピンポイントでDaVinci Resolveを利用するような使い分けをすればよいと思います。
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POINT
- DaVinci Resolveはビジュアルエフェクトや音響にもこだわれる動画編集ツール
- 基本はカットページとエディットページの2つのモードを使いこなして利用する
- 動画コンテンツによって簡易性や専門性を使い分けて利用するのがオススメ