パルコのDX戦略に見るリアル店舗に求められるデジタル化
デジタル技術を人々の生活に浸透させ、より豊かにしていくことをDX(デジタルトランスフォーメーション)と言います。
実際の企業で展開されているDX戦略とはどのようなものでしょうか?
2019年11月22日にグランドオープンした新生・渋谷PARCO(パルコ)は、「世界へ発信する唯一無二の“次世代型商業施設”」というコンセプトを掲げ、新たな消費者ニーズの創造や価値観の提案という顧客体験に挑んでいます。この中では、ウェブやECの活用も重要な位置を占めています。
パルコの執行役であり、グループデジタル推進担当の林直孝氏と、CMSとしてのBiNDupを提供しながら、企業のウェブ戦略や推進に関わるデジタルステージ代表の熊崎隆人の2名による、渋谷PARCOを中心としたDXの取り組みと、BiNDupが描くDXの未来についての対談です。
売り場のデジタル化と新しい体験の提供とは
──「24時間PARCO」の意味とウェブ戦略を教えてください
林:スマートフォン(スマホ)の利用が一般的になった2013年に、「24時間PARCO」というキャッチフレーズを打ち出しました。これは、店頭接客とウェブ接客に総合的に取り組み、新たなコミュニケーションや購入体験を提供する、という意味でした。店頭接客は営業時間や商圏という地理的な条件に制約されますが、ウェブでは24時間いつでもどこでも接客できると。実は、当時よくいわれた「オムニチャネル」という言葉を、私たちなりにわかりやすく表現したものなんです。
ウェブに関する施策としては、2013年春から次々と、パルコのホームページのスマホ対応、19店舗(店舗数は2013年度時点)すべてでのSNS活用、各テナントがブランドや商品について日々発信するショップブログの開設、店頭商品のウェブ注文や取り置きが可能な「カエルパルコ」の立ち上げ、スマホ公式アプリ「POCKET PARCO」のリリースという順で取り組んできました。
特に、パルコの店舗すべてで個別に、Twitter、Facebook、LINEなどのアカウントを開設したことは、2013年当時、他に例がなかったと思います。それぞれ立地も商圏もテナントのラインナップも、もちろんお客様も異なるので、店舗ごとにしっかりと情報発信し、コミュニケーションをしていこうと。
──オムニチャネル化やウェブ活用におけるトレンドは何でしょう
熊崎:アパレルやジュエリー、飲食店などのクライアントと幅広く仕事をしている中で、時代の大きな変化を感じます。数年前までは、リアル部門とインターネット部門ではどちらかの売上が伸びれば、どちらかの売上が減るというトレードオフの関係でとらえていたんですね。
その後、インターネットがいっそう普及し、オムニチャネルという言葉が生まれることで、両方の垣根を壊し、シームレスにつなぐ必要性が認識されるようになります。たとえば、インターネットでキャンペーンを行い、リアル店舗への集客につなげたり、リアル店舗で商品の手触り感を確認したあと、インターネットで購入する、といったことです。
リアル店舗は、実際に商品を手に取れることが強みと考えられていますが、実は商品が生まれるまでの背景やストーリーについては情報不足です。優秀な店員さんに聞けば教えてくれますが、接客に割ける時間は限られます。物理的なスペースにも限りがあるし、ひとつの商品にたくさんの情報を付与することは難しいですよね。それをウェブコンテンツで補うことが、購買意欲を高めることにつながります。これまでの購入履歴をもとに、他の商品をレコメンドするといったことも、リアルとウェブの効果的な組み合わせ方だと思います。
さらに別の事例として、高いお金をかけてデジタルサイネージのコンテンツを作ってきた会社が、ホームページ作成ソフトであるBiNDupのテンプレートを使って広告を簡便に作りたいという話があったりと、デジタルサイネージやスマホ向けのコンテンツ作成の境界線が変わってきたこともありますね。
林:パルコでいうと、各テナントのショップブログを読んだ人が、そこで紹介されている商品を「カエルパルコ」ですぐにインターネットで注文できるしくみを整えたのが2014年です。実際に店頭に足を運び、試着や接客の上で購入したい方のためのお取り置き注文機能も備えています。つまり、「カエルパルコ」には、インターネットで「買える」、取り置いた商品を店頭で買って「持ち帰る」という2つの意味があるんです。
ショップブログを読んで、電話での取り置き依頼があったり、それこそお金を送るので商品を配送して欲しいという声がありました。また、テナントそれぞれが活用しているSNSで生み出す、お客様とのエンゲージメントはすごいものがあるなと。
──店舗側からオムニチャネルを加速する「しかけ」とは
林:新たなフラッグシップ(旗艦店)の役割として、渋谷PARCOの5Fにある「PARCO CUBE」という売り場スペースを紹介します。通常のショップはテナントが造作を行いますが、ここはパルコ側で基本的な内装造作を設計・施工し、接客に必要なデジタルサイネージと注文用のタブレット端末を11ショップ分用意しています。
また、リアルの売り場とECをつなげる取り組みとして、2018年に「カエルパルコ」をリニューアルし名称を変更した「PARCO ONLINE STORE」を活用しました。従来は店頭の商品在庫を登録し、販売するためのプラットフォームでしたが、PARCO CUBEでは店頭在庫ではなく11ショップのテナントが自社で運営するECの在庫情報と連携させ、店頭にない商品も、自社ECに在庫があれば、その場で注文でき、数日中にご自宅に発送できるしくみに進化させました。
熊崎:時代の二、三歩先の施策を思いつき、実行したとしても、なかなか定着しません。話題性だけではなく、顧客満足度が上がるかどうか、消費行動に寄与するのかどうかが大切です。パルコの施策は、単なるプッシュ型の集客や接客ではない点、パートナーと一緒に取り組まれている点がスマートですし、今の時代にとてもマッチしています。
来店後や購入後のフォローアップも大切ですね。「24時間PARCO」とおっしゃっていたとおり、店頭のコミュニケーションだけが接客ではありません。店頭接客のあと、何分後にショートメッセージを送るといったことが、これからは求められるでしょう。店から外に出たあとの接客は、まさにデジタルが貢献できる部分。たとえば、デジタルの中のカリスマ店員さんがうまくフォローアップすることで、再度の来店や購入につながったりと、人とテクノロジーの力を組み合わせた新しいマーケティングも出てくるでしょう。
接客のデータ化とブランド主役の売場づくりの可能性
──消費者の店内行動データの取得と活用の取り組みを教えてください
林:オムニチャネル化の取り組みの中で、ウェブ接客のプラットフォーム構築を2013年から3年間かけて行いました。従来はお客様の購買行動、つまり、どのショップで購入されたのかはハウスカードの決済データ等で把握できるのですが、その前後にどのように行動されているかは、実はわかりませんでした。
その後、店舗とデジタルをつなぐカギとして、2014年秋にスマホ公式アプリ「POCKET PARCO」をリリースし、ID化されたお客様について、来店前・来店中・来店後までを通して理解できるようになりました。ショップブログを見たあとのお気に入り登録、来店時のアプリでのチェックイン、店内を500歩歩いていただくとコインと呼ばれるポイントを付与する歩数カウント、接客と購入後のアンケートによるサービス評価という流れです。サービス評価は5段階の星とコメントをつけていただきますが、再度来店いただけるのは、やはり星5つの方が多い。でも大切なのは、評価が低い方のコメントを見て、接客改善に活かすことです。
最近、渋谷PARCOで実現したのは一部のショップに導入した「電子レシート」サービスです。購入時にスマホで「POCKET PARCO」のバーコードを提示いただくと、レシートのコピーがアプリで閲覧できるしくみです。アプリに電子化されたレシートがたまるので財布の中がスマートになるお客様のメリットがあります。パルコ側では、店頭で何を購入したのかを把握できるようになりました。
このようなデータが蓄積されてくると、お客様が次に何が欲しいのかを予測し、レコメンドできるようになります。今後のアプリの改修計画では、ショップ単位でのレコメンドに加えて、商品単位でのレコメンドの実装を予定しています。お客様にとっても、ショップにとってもメリットのある「三方良し」のしくみになると期待しています。
熊崎:パルコの一連の取り組みをお聞きして、買い物体験を通して生み出される「ブランド」の大切さを再認識しました。楽天市場は「店舗」が、アマゾンは「商品」が主役という点が大きな違いですが、もうひとつ「ブランド」が主役という在り方ですね。
アマゾンのような商品単位での検索や表示では、ブランドイメージを訴求する場所がありません。リアルの店舗でも、ひとつのスペースにさまざまな商品が陳列されているケースが多く、空間的な制約、接客の時間的な制約もあります。
実はリアルの店舗もオンラインの店舗も、ブランドのコンセプトやメッセージを明確に伝えることが、かなりおざなりになっています。このような情報にこそ興味があって、購買意欲につながる人も多いはずです。背景情報を知ることで、顧客体験や満足度、購入後の愛着なども大きく変わってきます。
このような点に着目すると、ECもまだまだ進化するはずです。ギフトやプレゼントは特にそうで、贈る人と贈られる人、2人分のストーリーがあるんですね。ブランドイメージをきちんと訴求することが、ストーリーに厚みをもたせます。アマゾンが高級食品販売チェーンのホールフーズを買収したり、リアル店舗を出店したりしているのも、まさに「リアル」でしかできないことを探っているからです。
単なるセールでは消費者は動かないようになっています。いかに効率的にモノが買えるかではなく、手にするまでの体験のエンターテインメント性が問われる時代になるでしょう。これは、先ほどの「ブランドが主役」という話にも通じていて、そのアイテムを持っていると生活の質が上がる、その服を着ると気分が高まるという感覚は、ブランドへの理解があればこそです。
※Ascii.jpより転載。一部の内容を変更しています。
ECサイトもテンプレートで簡単に作成できる
▽対談の後編はこちらから
POINT
- リアル店舗では限られてしまう情報をウェブコンテンツで補うことができる
- フォローアップにもデジタルを活用して再来店を促すことができる
- リアルとEC、双方でブランドイメージを明確に発信することが顧客化に繋がる