毎年3月15日は前年度の所得税額を確定して申告する「確定申告」の締め切り日。
本ブログの読者にも、フリーランスで活躍するWebデザイナーやコーダーの方などがいらっしゃると思います。
申告書の作成方法や仕分けの方法はネットにもたくさん情報がありますが、微妙に判断がしづらいのが「このお金は経費にしていいかどうか?」問題です。
今回は、プロの税理士でフリーランスやひとり社長の経理の効率化に詳しい井ノ上陽一さん(EX-IT)にQ&A方式で経費の判断の仕方を詳しく伺いました!
経費のキホン
フリーランス・自営業の確定申告では、「1年間の売上から必要経費を除いて、利益(課税所得)を算出する」収支内訳書(青色申告者は青色決算書)を作成する必要があります。この書類のほか、前もって納められている源泉税の金額や税控除や株式譲渡の損益などを書き込む「所得税の確定申告書」を作成して申告書として提出します。
収支内訳書(決算)では、経費の計上が多くなるほど課税所得は低くなるので、経費が多いほうが税金は安くなります(還付金が増えます!)。そのため、かけた経費はもれなく(ズルをするというわけではありませんよ!)記載したいものです。
Web制作事業、Webデザインなどを事業としてる人であれば、たとえば制作に使用するパソコンは経費になるでしょうが、ある意味パソコンとネットでほとんどのことができてしまい、事務所もなく自宅やノマドだと「経費にできるものが少なすぎる!」と感じているかもしれません。そこで「こんなものも経費にできないだろうか」というフリーランスの持つ疑問を井ノ上さんにぶつけてみました。
ソフトやWebサービスなど日々使うツールは経費にできる?
Q1. Web制作者が仕事で頻繁に使うツールやサービスは、経費として認められますか。
オンラインクラウド、サブスクリプションのサービスなどや、スマホ(ネット閲覧や仕事先との連絡)はほとんど仕事のために使っているといってもよいので、経費として計上して問題ないですか?
A1. 仕事のために使っていれば、経費として認められる可能性はあります。
「可能性」と書いたのは、同じサービスであっても、利用方法によっては認められない可能性もあるからです。経費として認められるかどうかは、ツールやサービスの性質そのものでなく、今の仕事、今後の仕事に必要だと説明することができるかが、経費の判断基準となるからです。簡単な基準をもうけるなら、家族、友人に胸を張って経費にしていると言えるかどうかをバロメーターにするといいでしょう。
たとえば、Webデザイナーなら以下のようなもの
- オンラインで買ったフォント(海外であればクレジットカードなどの明細にある日本円に換算)
- オンラインドライブの年会費
- Netflix(動画配信サービス)の視聴代
- スマホ利用料、スマホ本体代金
- ケータイの通話料金
- ブログ運営手数料やデザインテンプレート費
- 光熱費、ネット回線費(自宅で家族が共用でもOK)
は経費となります。ただし、プライベートでも使っているものはその割合で按分しましょう。これを家事按分といいます。たとえば、光熱費の場合仕事で50%、プライベートで50%だったら、12,000円の場合は6,000円だけ経費にします。ブログは仕事を取るために運営していると説明できれば、すべて経費にしても問題ありません。また、「ほとんど仕事に使っている」場合、目安として95%仕事に使っているなら、全額経費にしても問題ないでしょう。
SuicaやIcocaなどオートチャージは丸ごと交通費にしてOK?
Q2. Suicaのチャージ料金はそのまま経費にしてもいいですか?
仕事のための交通費は全額経費になると考え、自分で使っているSuicaのチャージ料金は交通費として経費にしていいですか?
A2. オートチャージは交通機関に乗った証明になりません。
事務所や取引先、取材などへの移動に必要な交通費は「旅費交通費」として経費にするのが一般的です。
ですが、Suicaのチャージ料金は、経費になりません。お金をプリペイドカードにチャージしただけに過ぎないからです。
経費とは、実際に使ったときに経費となりますので厳密にはSuicaで交通費を支払ったときに経費となります。また、チャージだけではその使い道がわかりません。
交通費としての証明としては、Suicaの利用履歴をこまめに取るか、エクセルや手書きででも交通費の精算記録を作っておく必要があります。また、モバイルSuicaで連動させるのが楽です。
メルカリで買ったものは経費にできる?
Q3. メルカリでの売買は経費や売上に入れますか?
フリマアプリである「メルカリ」で昨年、いろいろな売買をしました。趣味のものも買いましたが、仕事に使う本も安く買ったりしました。これらは一部経費にできますか? 逆にメルカリで10年くらい前に趣味で使っていた機材を売りました。けっこうな額になったのですが、売上に計上するべきでしょうか? ちなみに機材は、フリーランスになる前に購入したものです。
A3. 仕事用途なら計上できるが、個人用途での売り買いは経費にも売上にもしません。
経費は、基本的に仕事のために使ったものなので、「仕事に使う本」を買ったのであれば資料費などとして経費にできます。一方で、個人の趣味、生活で買ったものは、経費にできません。
同様の考え方で、個人の範囲で売った機材の儲けは、売上に計上する必要はありません。
「接待」以外の飲食代も経費にできる?
Q4. 飲食や嗜好品はどの程度まで経費にできますか?
Web制作業では基本的に飲食物は経費にしづらいと思いますが、打合代や接待交際費、また事務所消耗品として経費化できるものもあると思います。どの程度ならOKでしょうか? また、嗜好品や高額商品は額が大きいのでできれば経費にしたいですが、100%経費としていいか悩みます。どのように考えればいいでしょうか?
A4. 嗜好品などは区分が難しいが経費にできるものはある
基本的に、飲食費は、自分のためのものを経費にするのは不可です。ですが、取引先との飲食なら、会議費や接待交際費として経費になります。相手が見込み客だった場合は、仕事が発生していませんから微妙ですが、どこまで見込めるかにもよります。これも理由が説明できるなら落とせる可能性はあるでしょう。
カフェで仕事をするときの飲食費は、仕事のために使ったのであれば会議費として経費になります。自宅作業の場合も、コーヒー、ドリンク程度なら事務所消耗品として経費としても問題ありません。
そのほか、自転車、オートバイ、自動車なども仕事で使っているなら、経費化できます。プライベートと仕事で使っている割合を決め、按分してください。デジカメは、写真を仕事で使っているなら、その割合に応じて経費にしましょう。
オーディオは区分が難しいところですが、仕事の割合に応じて落とします。最近であればAIスピーカーがインターネット系の事業者では話題になっていますし、アプリの開発や研究のために使うなど理由があれば経費にできる可能性が高いでしょう。
ちなみに、青色申告であれば購入金額が30万円、白色申告なら10万円(一般に税込、もしも税抜経理制度を導入している人なら税抜)以上の商品については、その製品の耐久年数(国税庁で資料が配付されています)によって少しずつ経費とする必要があります。これを減価償却費といいます。
以下、迷いそうなものを判定してみました。
- 事務所に常備の茶菓子、コーヒー・茶・お酒(お客さんが来ることがあるが、主に自分が消費する)→〇消耗品費で
- 自宅で常備の茶菓子、コーヒー茶・お酒(家事消費とわけて計上するとして)→△コーヒー程度ならOK。消耗品費で
- 取引先へのお歳暮・贈り物→〇交際費で
- 見込客への贈り物・接待→△交際費で
- 仕事仲間との飲食費(飲み会など)で、自分の支払い分(割り勘)→〇交際費で
- スタバやカフェで、一人パソコン仕事をするときの飲食代→〇会議費などで
- 自転車、オートバイ、自転車、デジカメ、オーディオなどの高級品(クルマは按分が基本ですが、家事按分が必須?)→△家事按分し消耗品費とするか、青色申告なら30万、白色申告10万円以上なら減価償却する
旅行や飛行機の運賃を費用を経費にできる?
Q5. 海外研修は経費にできる?
海外研修旅行を計画中です。仕事関係のイベントに1つ出席し、社会化見学を兼ね現地撮影や施設見学を行います。これらは今後仕事の資料に使う予定です。仕事に費やす日程は3〜5日程度で、滞在は2週間で余暇を兼ねます(ただし、毎日数時間程度ルーチンワークをホテルで行います)。どう経費計上するべきでしょうか。
また、もし家族をつれていけば家族旅行と見なされ、経費計上はできなくなるでしょうか?
A5. 家族との旅行でも仕事をした証拠があればよい
まず、仕事をしたという証拠を残しておきましょう。レポートの形式で、写真やパンフレットがあれば、なお証拠になります。
家族がいるからと言って即、家族旅行とはみなされません。ポイントは、自分の分だけを経費にする、仕事をした証拠をつくるといったことがより必要となります。自分の旅費についてもプライベートと兼ねていると自覚があれば、その割合に応じて按分します。
英会話やオンラインレッスン、語学研修は研修費にできる?
Q6. 語学学習・語学学校の月謝は、研修費となるでしょうか?
英会話教室に通っています。語学学校の月謝は、研修費となるでしょうか。海外ユーザーの動向やWeb制作の先端知識を得るために語学の習得は必要です。会社員時代は、語学学校へ行くと申請すれば一定の補助金が出ていました。フリーランスでも認められる範囲などがあるのでしょうか?
A6. 社員の補助や助成金とフリーランスでは異なる考え方が必要
会社の場合、補助金は、従業員のための福利厚生という意味合いがあります。個人事業主には自分に対して福利厚生を計上できる、という概念自体がありません(個人事業主でも雇い人に対しては福利厚生を行うことはできますが経営者にはダメです)。
語学研修は、プライベートにも関係するものなので、経費として認められない可能性もありますが、なぜ必要なのか、語学を身につけてどのくらい売上が上がったかの証拠をつくっておきましょう。
賃貸の家賃は経費にできて、マンションのローンは経費にできない?
Q7. 購入したマンションや自宅のローンは経費になる?
SOHOにしている自宅のローンを経費にできないでしょうか? 賃貸家賃の場合は自宅であっても家事按分で経費化できますが、購入したマンションや自宅ローンの場合は経費にできないとのこと。なにか、節税のために利用できる仕組みはありますか?
A7. もれなく経費にできる部分は確認する。ただし住宅ローン控除に注意する
自分が所有しているマンションや住居の場合も、次のようなものは、仕事で使っている割合で按分し経費にできます。
- ローンの金利(元金は不可)
- 減価償却費(建物部分について複雑な計算をする必要があります)
- 管理費
- 固定資産税
- 火災保険料、地震保険料等
ただし、住宅ローン控除を受けている場合は、注意が必要です。経費に落とした分は住宅ローン控除を受けることができないからです。
50%以上を経費にした場合(仕事に使っている場合)は、住宅ローン控除自体を受けられなくなります。
なお、10%を経費にする場合は住宅ローン控除を100%受けていいというルールがあるので、持ち家で経費にするなら、10%にしておくのがいいでしょう。
ちなみに、同居する親や配偶者などが建物の所有者(もしくは事業主)として自分個人に家賃を払ったとして経費にする場合は、もう一方で個人(家族に払うのならば親や配偶者)が不動産の収入と経費を確定申告する必要が出てきてしまいます。これは確定申告の手間も増え、節税効果が少ない場合もあるので、おすすめできません。
いかがでしたか? いつもモヤモヤっとしていた部分の経費の計上方法、クリアになったでしょうか? いままで気づかなかった経費や忘れていたものがあれば、しっかり計上していきましょう!
POINT
- 確定申告の際、経費をきちんと申告することで、所得税を抑えることができる
- 使ったお金がなんでも経費になるわけではないので見極めと判断基準をしっかり持つ
- 判断基準のキホンは仕事のために本当に必要か? それを家族や友達に胸を張って説明できるか?